【演劇観てきた感想】パラドックス定数『諜報員』

4.5
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出典:パラドックス定数 https://pdx-c.com/

おすすめ度:☆☆☆☆✬
公演期間:2024/03/07(木)~2024/03/17(日)
劇場:東京芸術劇場シアターイースト
脚本・演出:野木萌葱
出演:植村宏司、西原誠吾、井内勇希、神農直隆、横道毅、小野ゆたか

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あらすじ

リヒャルト・ゾルゲ。
父はドイツ人。母はロシア人。
ドイツのジャーナリストとして日本へ入国。
その正体は、ソビエト連邦の諜報員。

任務は日本の国内施策、外交政策を探ること。
独自の情報網。信頼すべき協力者。
彼らと共に数年に渡り活動。
しかし遂に、特別高等警察に逮捕される。

彼が諜報員だったなんて。
知らなかった。
信じていたのに。
裏切られた。

協力者たちは、口々にこう叫んだ。
彼らは皆、決まってそう言う。
騙されてはいけない。
保身の為に叫ばれる言葉など、すべて嘘だ。

協力者たちを、探れ。
二つの祖国を持つ外国人諜報員。
その周りで、彼らは何を見ていたのか。
日本はどれだけ、丸裸にされたのか。

こんにちは。
Guten tag.
Добрый день.
パラドックス定数の、リヒャルト・ゾルゲ事件。

出典:パラドックス定数 https://pdx-c.com/
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作品の感想

注意

あくまでも個人の感想、若干ネタバレを含むため閲覧注意

演出・脚本:☆☆☆☆☆

『四兄弟』に引き続いてまたソ連関係である。が、かなり手法を変えてきており、前作の思想と国体の擬人化というファンタジーなタッチから、フィクションながらもグッとリアルな描写で『ゾルゲ事件』(リヒャルト・ゾルゲを頂点とするソ連のスパイ組織が日本国内で諜報活動および謀略活動を行っていたとしてその構成員が逮捕された事件)を描いている。

ただ、ゾルゲ本人やそのスパイ組織の主要な構成員である尾崎秀実(ほつみ)、宮城与徳、安田徳太郎、九津見房子がほとんど出てこない。ゾルゲ、尾崎、宮城がそれぞれ数シーン回想のような形で登場するのみで、物語はその更に外側にいた人々(今作の主人公たち)を描くことによって展開されていく。絵画でいうと没骨法(東洋画)とかスフマート(西洋画)とか言われる輪郭をハッキリと線で表現しないような手法で、事件の真相が徐々に観えてくるという構成がサスペンス調でもあり非常に楽しめた。

紺野(小野ゆたか)は宮城与徳と、早川(植村宏司)は安田徳太と、芝山(西原誠吾)は尾崎秀実とつながりがあり、腹に一物抱えている。立原(井内勇希)は九津見房子とつながりがありつつ、実は警察のスパイで六鹿(横道毅)と若尾(神農直隆)と繋がっている。ただその警察組織は実はゾルゲ達を拘留している特高(特別高等警察)ではなく。。。たった6人の登場人物で見事に舞台設定を完成させており、この6人の演技が秀逸であることも相俟って観応えのある作品だった。

どうして当時から戦後の安保闘争にかけて(そして、もしかしたら今も、、、)日本の意識高い系の人は、あのように共産主義(というか社会主義)に傾倒してしまうのか。。。(現在のロシアではもはや見る影もない思想であり、中国では労働者の思想として意識高い系は”知識分子”と揶揄される)などと、考えさせられながら観ていると最後に若尾がアメリカのスパイという抜群にシニカルな結末で心が仰け反った。

俳優:☆☆☆☆★

小野ゆたか

いかつい雰囲気から繰り出される”可愛げ”が非常に魅力の俳優で、今作ではゾルゲを演じているシーンで発揮されていた。紺野としての最初の取調室でのやり取りが、物語が展開されていく契機となっていて観応えがあったが、あそこでもっと小野ゆたからしさを期待してしまった。

植村宏司

実は4人の中で最も事件の核心からは遠いのだが、色々と心配性で恐怖に駆られて至らぬことをやってしまうトラブルメーカーの早川を好演。早川は4人の中で最も意識高く無い系で観客に近い感覚を持っているのだが、劇中では真逆の尾崎も演じているところがキャスティングの妙。

西原誠吾

尾崎の後輩である芝山の新聞記者としての葛藤が印象的。社会派らしく、権力に対する懐疑的なスタンスとか、取り調べに対して身分を隠す早川の代わりを名乗り出て探りを入れていく度胸満点な姿が格好良い。毎回取り上げてしまうが、声がね、いいんですよ俳優として。

井内勇希

実は拘留されている他の3人を分断するための警察側のスパイである。ゾルゲというスパイのお話で出てくるスパイ。そして、周囲のあまりにも高い熱量に感化されて、ちょっと赤化されかかっている自分を意識して苛まれている葛藤が非常に印象的だった。信念のある人々って怖い、、って思ってしまう。

横道毅

役柄的にどうしても一本調子になってしまうのだが、それでも子供っぽさをはらんだ嫌味な警察官僚らしさが確り出ていてお見事。

神農直隆

暴力的で打算的ながら、どこか飄々としていて達観している側面も観せていた若尾が、実はラストシーンでこれから敵国となるアメリカと繋がっているスパイであると告白、というどんでん返しで「おぉー」って声が出そうになった。驚異のラストを妙に納得させる人間性を醸し出していた。

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まとめ

男性6人で魅せるパラドックス定数らしい素晴らしい会話劇。なんと”次”も「ソ連」ものらしい。

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出典:パラドックス定数 https://pdx-c.com/

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