出典:かわいいコンビニ店員 飯田さん https://iidasan.com/
おすすめ度:☆☆☆✬★
公演期間:2024/07/11(木)~2024/07/21(日)
劇場:OFF OFFシアター
脚本・演出:池内風
出演:宇野愛海、小林れい、長南洸生、橋本菜摘、廣瀬智晴、吉田悟郎、渡辺翔
あらすじ
以前、本当の心の底から貧しかった時に、ある知り合いからラフティング(川下り)に誘われて断り続けていたのですが、あまりのしつこさに心が折れ一緒に奥多摩へ行ったことがありました。
自然に囲まれ、清流をゴムボートで降りながらフッと思ったのです。「帰りたい。これで交通費込みで8,000円くらいかぁ」と。金銭的な貧困はまさに心の底の底まで貧しくさせるんだと緩やかに流れるボートと、はしゃぐ若者に囲まれながらこんなことを感じました。
「アラブの石油王だったら俺もこのラフティングを楽しめたのだろうなぁ」と。そして気がつきました。
「人間は何かを楽しむためにも楽しむ分の心の容量が必要なのだ」と。パソコンの容量が残っていないと動きが遅くなるのと一緒なのだと。その時は邪心が働き、他の参加者と交流を持とうとはしゃぐ若者たちに向かって無表情で眺めて「皆さんの欲望、私は見透かしていますよ。」という態度でテンションを下げることしか対抗策がなく、その行為でも更に人としての貧しさを自分に植え付ける形に終わりました。
そして時は過ぎ、今年。『子供部屋おじさん』という肩書きでやや居直りつつ実家に居座っている私は、堂々と母の作ったカレーうどんを食べながら「買ったものに10%かかり、収入に対して10%取られ、そこから源泉徴収税10.21%。市民税と国民健康保険、年金、電気代は上がっている。物価もグイグイと……」
と思い、これまでで一番複雑な味のカレーうどんになってしまいました。
これで一人暮らしの方はここに家賃がかかってくる。どうしたら良いんだ。地獄じゃないか。
演劇も物価が上がり、消費税もアップ。つまりは資材代や劇場費、電気代、弁当代も上がり、少しずつチケット代が高騰しています。世の中調べればアフィリエイトや広告収入、投資など、稼ぐための方法が出回ってるけど、それらを発見できない人たち、これまでの『真面目にコツコツ働く』ことが良しとされていた考え方からアップデートできない方は『無能』『頭が悪い』などと切り捨てられ、肩身の狭い惨めな気持ちのまま生きていく。
果たしてそんなことで良いのだろうか。
でも、金銭的貧さと心の貧しさって直結しないだろうか。特別裕福でなくても、生活に困らずに何かあったときに耐えられる貯蓄があれば良いと思うけれど、それ、実は前より難しくなってないか。などと思いながら今の生活を守るために生きています、僕が。
今回貧困を通して、今、改めてこの世界で生きていく上での幸せのあり方を探りたいと思っています。
出典:かわいいコンビニ店員 飯田さん https://iidasan.com/2024/04/21/408/ 「創作にあたり」
作品の感想
あくまでも個人の感想、若干ネタバレを含むため閲覧注意
演出・脚本:☆☆☆☆★
物語は、シェアハウス「ラブリエ」の共有リビングダイニングルームを舞台に、シェアハウスに暮らす人々の”貧困”に起因する諸々のストーリーを上手く絡めて展開させている。”かわいいコンビニ店員 飯田さん”の作品に伺うのは実に9年ぶり(2015年『マインドファクトリー~丸める者たち~』以来)になるのだが、流石に旗揚げから10周年を迎えられただけあって作劇が洗練されており、2時間を超える作品ながらテンポよくストーリーが展開されて無駄がなく、場転も違和感なく受け入れられた。(正直なところ9年前に拝見した際は、余りにも展開がぶつ切りで観づらい印象が強く、以来足が遠のいていた)
舞台美術に相当力を入れており、具象にこだわってリアリティを追及しているのが伝わってくる。OFFOFFシアターであそこまでセット作り込むのは珍しく、俳優も多いため、全席指定としてそれなりのチケット料金にしているのも頷ける。その代わり、案の定遅刻してくる客がいて開演が相当遅れたのはいただけない。OFFOFFで指定席にするなら、開演後の入場を本当の意味で禁止するぐらいの覚悟が欲しい。
取り扱っている”貧困”については、自分の方が作者より一世代上でジェネレーションギャップがあるからなのか、やや”違う”印象を受けてしまう。漠然とした将来に対する不安、変わらない現状に対する不満などは垣間見れるが、圧倒的な絶望みたいなものはなく、自分の世代が感じている”貧困”とはちょっと”違う”なという感覚。本当に紙一重の差で一歩間違えば自分も”無敵の人”にならざるを得ないという恐怖感がどうしても自分の中にはある。観る人によって色々と違うモノが見えてくることが想像される。ラストシーンも、色々と解釈の分かれるところで、自分としてはワーストシナリオと思われるようグロい展開を想像してしまうのも”貧困”が”絶望”と直結しているからなのだろう。そしてそれだからこそ何事もなかったかのようなラストシーンのえぐみが際立っていた。
俳優:☆☆☆★★
吉田悟郎
シェアハウス「ラブリエ」のオーナー、美濃部國光。自分の視点では一番共感を覚えるキャラクタであった。色々と気を使ってくれているが所詮は”持てる者”であり”持たざる者”とは相容れない描かれ方であるが「ラブリエ」の住人に比べて遥かに”普通”であると感じさせてくれた。ちょうどいい感じの”勝っている感”が出てて良かった。
渡辺翔
シェアハウス「ラブリエ」の住人、武藤勝次。美濃部と対照的な”負け組”で、周囲に不機嫌ハラスメントをまき散らしている。観ている側も若干不愉快になるレベルで演技としてはとても良かったと思う。設定年齢がロスジェネ末期であり、なんとなく気づいたら負けているではなく、本当はもっと確実に負けている気はちょっとした。
廣瀬智晴
シェアハウス「ラブリエ」の住人、小鳥遊陽向。劇中で最も謎な人物で実存感がまるで感じられない。が、確かにそこにキャラクターとして存在している。そして、本当にいたのかどうかラストシーンで分からなくなってくる。色々な意味で凄いキャラクター造形だった。
まとめ
メンタルが安定している時に観れてよかった。不調時に観てたら楽しめないヤツだった。
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