出典:アマヤドリ https://amayadori.co.jp/
おすすめ度:☆☆☆☆★
公演期間:2024/03/15(金)~2024/03/24(日)
劇場:シアター風姿花伝
脚本:ヘンリック・イプセン
演出:広田淳一
出演:徳倉マドカ、倉田大輔、大塚由祈子、宮崎雄真、中村早香、沼田星麻、一川幸恵、宮川飛鳥、堤和悠樹、星野李奈、稲垣干城、相葉りこ、西本泰輔、冨永さくら、結稀キナ、村山恵美
あらすじ
アマヤドリ、イプセン四演目めにしていよいよ『人形の家』に取り組むことになりました。他の作家に浮気することもなく、古典といえばイプセンてな具合で取り組んできたわけですが、イプセンの何がそんなに好きなのか? と問われれば、やっぱり登場人物の複雑さ、豊かさに圧倒的なものを僕は感じているわけです。以前にやった『野がも』にしてもそうですが、若い男女はもちろんのこととして、中年、壮年、老人から幼女に至るまで、極めて複雑でロクでもない、小ズルく嫉妬深く、嘘ばっかりついている、鼻持ちならない人間がたくさん出てくる。みんなそれぞれイヤなやつなのに、みんなそれぞれに追求している美学があって、理想があって、でも、限界があって。ああ、人間がいるなあ、と思わせてくれるところがイプセンの真骨頂、ではないかと思っております。
実は何年も前の段階で一度、『人形の家』をやるという企画があったんですが、あえて今まで避けてきました。というのも、タイトル負けしちゃうと思ったんですね。やっぱり有名だし。今、こうして何本かイプセン作品に取り組んだあとで自分たちなりに多少は方法論、突破口みたいなものが見えてきた気はするので、いよいよ挑むタイミングが来たんじゃないかな、と。そんな気持ちでおります。はい。もう、面白い作品であることは間違いありません。天才の、代表作なんですから。
『激論版』では、原作の形を守りつつも言葉を大分刈り込んでソリッドなドラマに仕立て直し、イプセン戯曲のポテンシャルを最大限に活かした格闘技みたいな会話劇をお見せできればと思います。一方の『疾走版』では、とにかく俳優の身体を頼りにして大胆に戯曲を再構成し、明滅するイルミネーションのような悪夢のフラッシュバックとして人形の家を、つまり、失われた家庭の幸福、崩れ去った近代の夢を、お見せできればなと思います。片方だけでも、もちろん、両方でも。ご来場心よりお待ちしております。
出典:アマヤドリ https://amayadori.co.jp/
作品の感想
あくまでも個人の感想、若干ネタバレを含むため閲覧注意
演出・脚本:☆☆☆★★
名作『人形の家』ではあるが、やっぱり海外戯曲は馴染まないんだよな、、、という自分の感覚をどうしても再確認してしまう。最近再翻訳された最新の現代口語バージョンでも、日本語にすると漂う違和感はどうしても拭えない。人名や固有名詞が日本語にそもそもないのだから仕方ない。
そして”古典”もやっぱり合わない。特に”激論版”は原作の”風味”が色濃く残っている状態で、観ていてもリアル時代劇感が凄くあって、どうにも入っていけない。これがフィクションであったりエンタメ劇であれば、楽しめるのだが、ただ”古い”感じで楽しめない。分かっていて観に行っているとはいえ、そういう感覚。
同日に2バージョンを連続して”激論版”→”疾走版”の順で観劇したのだが、これが正解だったと思う。”激論版”を観ていないで、いきなり”疾走版”を観て楽しめる人は、相当のイプセンマニアかアマヤドリマニアだと思われる。”疾走版”だけで、しかも『人形の家』初見だった場合、軽くパニックになるぐらい演出が尖っている。まさか、イプセンで群舞(←アマヤドリの定番)を入れてくるとは思わなかった。オープニングから、多重螺旋構造で同じシーンを複数の俳優が繰り返し演じていて、しかも付いている演出が演者の個性に合わせて違う、更に時系列が逆転していて、ラストから徐々に前のシーンに多重螺旋構造を保ったまま戻っていく。しかも戻り切らないで、またラストに向かって流れていくという難解さである。正直嫌いではないが心配になるほど大胆な演出だった。
俳優:☆☆☆☆☆
アマヤドリの俳優陣は、やはり練度が素晴らしく、高いレベルでバランスが取れているため、どの作品を観ても、そしてきっと誰が演じていても観応えのあるものを作ってくれるのだろうなという印象がある。激論版で倉田大輔が演じているヘルメルは、疾走版では、沼田星麻、宮川飛鳥、堤和悠樹、稲垣干城が代わるがわる演じており、誰のヘルメルも納得度の高い個性があった。同様にノーラも誰であっても”アリ”と思わせる個性を感じた。
印象的だったポイントはいくつもあるのだが、
- 小劇場ではとても珍しい出戻りで劇団員に復帰された稲垣干城の引き出しの多さ
- 疾走版の一川幸恵と相葉りこのノーラの人物造形が対照的なのに両方とも説得力が高い
- 激論版の大塚由祈子、宮崎雄真、中村早香のこの座組では”替えが効かない”と思わせる巧さ
- 客演陣はほぼ初見の方ばかりだったが劇団員と遜色のない出来映え
といったところがパッと言語化しやすく出てくる。
基本的に肌に合わない古典海外戯曲でも”観応え”充分だったのは、俳優陣の素晴らしさがあればこそ。
まとめ
余程のことがない限り他劇団の『人形の家』は暫くは観ない気がする。お腹いっぱいである。
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